CiRAニュースレターvol.34
2018年7月31日発行
澤井 努 助教

猿のクローンを作ることは絶対に認められないのか?

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2018 年 2 月、アメリカの科学誌『セル』に、中国科学アカデミーの研究グループが、世界で初めて猿のクローン(遺伝情報が同じ個体)の作製に成功したと発表しました。生まれたクローン猿はいずれもメスで、健康に成長しているとのことです。今のところ成功率は極めて低いですが、このグループは、人に近い疾患モデルとしてクローン猿を研究利用できれば、医学研究がさらに進展すると期待を示しています。

クローン猿の作製に対しては懸念や批判が相次ぎました。最大の懸念は、クローン人間の作製につながるのではないかというものです。今回は猿ということで、1996年にイギリスの研究グループがクローン羊「ドリー」を誕生させた時より現実味が増しているというわけです。子どもを亡くした親は、その子どものクローンを作りたいと期待を抱くことがあるかもしれませんが、一方で、知らぬ間に自分のクローンが、また、興味本位で有名人のクローンが作られるのではないかと不安を抱く人が少なくありません。

中国の研究では当初、クローン羊を作製したのと同じ方法(体細胞の核を、核を取り除いた卵子に入れる)が試みられたものの、健康なクローン猿の作製には至らなかったため胎仔の細胞から取り出した核を入れる方法が採られました(図)。そのため、今回の方法では、現在生きている人、または亡くなった人のクローンは作れません。そもそも、世界的にクローン人間の作製は厳しく禁止されており、今後も生まれてくる子どもや母体へのリスクが克服されない限り、それが認められることはないでしょう。

それでは、猿のクローンを作ることは問題ないのでしょうか。この問題を考える際には、目的と手段の見きわめが必要になると言えます。現在日本では、猿を研究に利用することがあります。無条件に認めているわけではなく、動物の福祉に配慮しながら、目的次第でその利用が正当化されているのです。その意味では、猿の研究利用は絶対に認められないという立場に立たない限り、クローン猿の作製についても、目的次第で認めるというのが一貫した態度でしょう。もし、それでもクローン猿の作製が認められないと考えるのであれば、その理由が大事になると言えます。

(文・上廣倫理研究部門 澤井 努)