未来を、みんなと、考える。
2007年、世界で初めて「ヒトiPS細胞」がつくられ、
私たちの前に新しい可能性がひらかれました。
そこから世界の科学者たちの手によって、
再生医療や創薬への応用をはじめ、
一歩ずつ幹細胞研究が進められてきました。
その一方で、私たちがこれまで直面したことのないような
新しい問題も次々と浮かび上がってきています。
たとえば、移植用の臓器をほかの動物の体内で育てたり、
脳を人工的につくりあげたり、
自分たちの細胞からつくった配偶子によって
同性のカップルが子どもを授かることも
可能になるかもしれない。
でも、できるからといって、
本当にそれをしていいのだろうか。
技術そのものは、その問いに対する答えを示してくれません。
しかし私たち人間は、考え、話し合うことで、
科学が生み出した技術に、意味や意志を
もたせることができます。
上廣倫理研究部門は、上廣倫理財団の寄附により、
2013年4月1日に京都大学iPS細胞研究所に開設されました。
私たちの研究活動は常に、
社会の動きと密接に関わっています。
iPS細胞技術や再生医療について
今まさに起こっている問題、これから起こり得る問題を
一つひとつ浮かび上がらせ、
世界へ向けて発信しています。
そして、その問題への対応にあたって、
多様な人々の考えや意見を大切にし、
ゆたかな選択肢を提示できるように努めています。
人と科学が、より良い未来へ進んでいくために、
私たちはこれからも「倫理」の研究と実践を重ね、
その成果を広く社会へ還元していきます。
所長あいさつ
臨床研究が着実に進展している状況を考えると、iPS細胞研究に対する社会の問題意識を把握し、人々が抱く様々な疑問に応えることが必要であると考えています。上廣倫理研究部門の設置により、iPS細胞に関する倫理課題研究に積極的に取り組み、社会からの信頼のもとに研究を行うべく、課題への対処方法等の国内外へ向けた提言や教育・啓発活動を行いたいと思います。
京都大学iPS細胞研究所 所長
髙橋 淳
部門長あいさつ
新しい科学技術の発展はわたしたちにたくさんの希望をもたらしますが、同時に、従来の価値観ではその是非が判断できないような「倫理的課題」も生み出します。こうした倫理的課題について社会で共有し、みんなで考えていくことは、生まれたばかりの科学技術の芽を育て、大きく花開かせていくうえで、欠かすことのできないプロセスです。iPS細胞技術に関しても例外ではありません。多くの患者さんを救えるというiPS細胞技術が持つ素晴らしい可能性に加えて、その倫理的課題についても社会でともに見つめて考えてもらえるような活動を目指していきます。
京都大学iPS細胞研究所 上廣倫理研究部門 部門長
藤田 みさお
プロジェクト概要
iPS細胞は、2006年にマウスで、2007年にヒトで樹立が成功し、最近ではiPS細胞を用いた世界初の臨床研究を端緒に、臨床応用に向けた研究活動が本格化し始めています。ただ、ヒト胚を用いるES細胞の倫理的課題を克服したとされるiPS細胞も、倫理的課題と無縁ではありません。例えば、動物の体内でヒトの臓器を作る研究や人工的に生殖細胞を作製する研究が進んでいます。どこまでならこうした研究を社会で認めてもよいでしょうか?認める場合にはどういった規制が必要でしょうか?認めてはいけない研究内容はあるでしょうか?新しい科学技術が社会で信頼されながら根づいていくためには、その倫理的課題についても研究し、社会の中で開かれた議論を行うことが不可欠です。
京都大学iPS細胞研究所上廣倫理研究部門は、このような要請に応えるべく、公益財団法人上廣倫理財団のご支援により2013年4月1日に開設されました。本部門の研究者は、アンケートやインタビューを用いた意識調査や実態調査、規制や政策の精査、文献研究等を通じてiPS細胞研究に伴う倫理的課題に関する現状を把握し、課題の明確化や解決策の検討を行います。また、研究で得られた知見を課題解決に向けた提言につなげることを目指します。研究者や青少年・一般の方々を対象とする教育活動にも取り組みます。iPS細胞研究を取り巻く倫理的課題の解決に向けた積極的な取り組みを通じ、生命倫理学の研究・教育拠点としての役割を果たすことを理念としています。
理念
京都大学iPS細胞研究所(Center for iPS Research and Application:以下CiRA)の一部門としての役割を明確に認識しながら、独立した研究者としても研究チームとしても次のことが実現できる専門家からなる、生命倫理学の国際的な研究・教育拠点になることを目指します。
- iPS細胞の倫理的課題について、事実やデータに立脚した建設的な議論をすること、また、建設的な議論に役立つデータを継続的に出すこと
- 政策や法規制の評価や課題の明確化を行い、関連省庁へ提言をすること
- iPS細胞の倫理的課題に関する研究成果を国際的に発信すること、また、国際動向を踏まえた幅広い視野で研究ができる研究者を輩出すること
- iPS細胞の倫理的課題について一般の方に広く紹介し、関心をもって考えていただく機会を提供すること
- 一般の方、研究者、行政、メディア等から寄せられるiPS細胞の倫理的課題に関する問い合わせに答えること
組織
上廣倫理研究部門はCiRA内に設置された5つの研究部門の一つです。
iPS細胞技術をツールとして活用することにより、分子細胞レベルでの新たな生命科学の分野を開拓する研究を実施します。
患者さんから提供された細胞をもとに作製したiPS細胞を、患部の細胞へ分化させて、病気の原因やメカニズムを探り、治療薬や治療法を開発します。
iPS細胞から様々な細胞を分化させるための誘導方法を確立し、細胞移植治療法についての効果や安全性を評価します。
臨床研究用iPS細胞の作製や臨床応用に必要な法規制整備の研究に加え、iPS細胞の品質保証や他の研究部門を支援する共通基盤技術の開発を推し進めます。
iPS細胞の臨床応用を取り巻く倫理的、法的、社会的な課題を整理し、その対処法を検討し、その成果を情報発信します。
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