CiRAニュースレターvol.27
2016年10月28日発行
八田 太一 研究員

アクセスしやすい 幹細胞治療の落とし穴

全文を読む

平成26 年11 月、再生医療等安全性確保法が施行された。病院やクリニックが細胞を用いた治療を提供する場合、その治療計画を国に届出ることが義務化された。その背景には、国内で科学的根拠の乏しい細胞治療が自由診療1)として提供され、死亡例が報告されたこと、そのような治療の実態を掌握するシステムが不在であったこと、などが挙げられる。幹細胞治療については研究段階のものが多いにもかかわらず、患者さんの期待は大きい。それを逆手に取り科学性を装ったクリニックのウェブサイトの存在は海外でも問題となっているが、国内の状況は明らかにされてこなかった。

このような幹細胞治療をめぐる法規制やウェブサイトの問題を背景に、我々は、再生医療法施行前の時点で、自由診療で細胞治療を提供していた一部のクリニックのウェブサイトを分析した。分析対象となった日本のクリニックのウェブサイト13 件と海外で行われた類似の研究結果との比較から、国内の自由診療クリニックでは「必ずしも重篤でない疾患」に「体に負担の少ない方法」で「入手しやすい幹細胞」を用いて治療を行っている傾向が浮かび上がってきた。また、これらのウェブサイトでは「通院で治療できます」、「副作用の心配はありません」、「モニター価格○○% OFF」など、患者さんを誘引するような情報が目立った。ここで注意すべきは、これらのこのようにして提供される治療の中には科学的に未確立な治療が数多く含まれていることと、健康被害に対する救済が期待できない場合があることである。

このようなウェブサイトの情報を取捨選択することは容易ではない。国際幹細胞学会(ISSCR)が発行する『幹細胞治療について患者ハンドブック』2)には、ウェブサイトから情報を読み取る際に留意すべき点が簡潔に書かれている。また、さまざまな疾患を対象に幹細胞を用いた臨床研究が科学的に厳密な手順に則り全国で行なわれているが、同じような治療が自由診療として提供されていることもある。それを見分けるには、厚生労働省事業のSKIP 3)が提供するウェブサイトが有用である。現在進行中の臨床研究や実施施設などが紹介されている。

今後も再生医療をめぐる状況の変化を捉えながら、我々の研究を社会に還元していきたい。

1) 国民皆保険が適応されない全額患者の自己負担で行われる治療。医師の裁量権と患者の同意によって認められている。
2) https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/faq/img/faq/isscr_patientprimerhndbk_japanese_fnl.pdf
3) http://www.skip.med.keio.ac.jp/frontline/hub/

(文・上廣倫理研究部門 八田 太一)