CiRAニュースレターvol.49
2022年4月21日発行
高嶋 佳代 研究員

未承認の治療法とどのように向き合うか

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新型コロナウイルス感染症の流行とともに、治療薬やワクチンに関する報道などで「未承認」という言葉を目にすることが増えたかもしれません。未承認であるとは具体的にどのよう な治療法を指すのでしょうか。日本の文脈で考えると保険が適用されていない治療法ということで、保険診療を目指す評価療養(先進医療や治験など)といった、国の制度内で提供される治療法もあれば、制度によらず医師の裁量で提供される治療法である場合も考えられます。後者の場合も一様ではなく、ある疾患で承認されている治療法を別の疾患に用いる場合や、効果的な治療法のない重篤な疾患の患者さんに今まで実施されたことのない治療法を試す場合、そして自由診療を行うクリニックで施術を受ける場合など実に様々な場合が考えられます。

こうした治療法は、一見、最先端の治療法という印象を受けるかもしれませんが、安全性や有効性が科学的に立証されていない段階の治療法であるため、その方法や対応などによっては健康被害にあうケースもみられています(※1)。しかし、さまざまな未承認の形が考えられるため、未承認であること自体が問題なのではありません。その治療法が未承認である背景や提供を受ける必要性を吟味し、判断することが大切です。たとえば、その治療に関する治療実績や副作用、他の治療選択肢の有無などを確認することが必要でしょう。更に他の選択肢と比べて、どのような科学的根拠に基づいてリスクや利益が示されているのか、そのリスクに対応するための体制などを納得できるまで確認した上で提供を受けるかどうかを決めることが肝要といえます (※2)。

新型コロナウイルス感染症のような未知なる感染症への治療や、iPS 細胞を用いるような新たな治療法開発も、最初は未承認の状態から開発が始まります。多くの人の命を救う ために喫緊に必要な薬剤の開発や、他に治療法のない患者さんへの将来の治療を確立していくことに関しては、承認に至るまでの経過を冷静に見守ることが必要です。今回のパンデミックは、開発の途中にある未承認の治療法に、私たちがどのように向き合うべきなのかを考える機会をもたらしたといえるのかもしれません。

 イラスト:高宮 ミンディ 開発途中の再生医療(若木)を正しく育むために、どのようなルール(メビウスの輪)が必要なのかを考えていくことも大切です。

 

(※1)例えば、一家綱邦,八代嘉美,藤田みさお,池谷博.再生医療を実施する自由診療クリニックに対する民事訴訟.日本医事新報 2015; 4766:14-16.
(※2)未承認の再生医療を受けることを検討する場合に、上廣倫理研究部門のメンバーらが日本語訳をしたガイダンスがありますのでご参照ください。 

(文· 高嶋 佳代 上廣倫理研究部門特定研究員)