情報発信のあり方について調査結果を考える
日本の再生医療研究者が多く加入する日本再生医療学会という団体があります。この団体で、再生医療についての適切な知識の共有をはかるため、「情報発信のありかた」について研究者と一般の社会の意識の差を知る調査を実施しました。
「一般の人々の関心事項」と「研究者側の伝えたい事柄」の間には差があるということがわかりました。細かくは挙げませんが、社会の関心は「実現したあとの社会がどうなるか」であり、研究者が伝えたいことは「科学的な意義」といった点に集約することができるでしょう。
我が国の科学技術政策の基本となる、第五期科学技術基本計画が2016年1月に閣議決定されましたが、そこでは「科学技術イノベーションと社会との関係深化」ならびに「共創的科学技術イノベーション」が謳われています。つまり、科学や技術は社会とともにつくりあげていくもの、ということが規定されているのです。そのため、コミュニケーション活動の推進が重要視され、さまざまな試みが行われています。
しかし、冒頭に掲げた結果はその努力がまだ道半ばであることを示しており、再生医療のような萌芽的な科学技術領域のコミュニケーションでは、関心の違いについて敏感になる必要があるでしょう。
2013 年に、日本では再生医療を推進する法律が整備されました。「再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律」が整備され、これに基づいて「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が新しく作られました。また薬事法という、これまで薬や医療機器等を規制していた法律が改正され、細胞を用いた製品や遺伝子治療もカバーする「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」となりました。
このように「再生医療の推進」をうたい、法律の名前まで入れたものは世界でも例がなく、日本がどのようなかたちで再生医療を進めていくのか、世界から注目が集まっています。実際に、日本の制度は世界のさまざまな学術雑誌に紹介されており、ひとつのモデルケースとなっています。
こうしたことを考えれば、再生医療が普及した社会をつくっていくためには、それを享受するはずの一般の人々と研究者がいかに情報を共有し、信頼を確保していくのかが重要な鍵となっていくでしょう。
(上廣倫理研究部門 八代嘉美 准教授)