CiRAニュースレターvol.58
2025年2月18日発行
藤田 みさお 教授

広がるエクソソーム治療:規制の不在が生む課題

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最近、「エクソソーム」や「幹細胞培養上清」の文字を目にすることが増えました。アンチエイジング商品としてドラッグストアに並んでいたり、病気の予防や治療をうたう再生医療としてSNSで広告されたりしています。エクソソームとは、細胞同士がコミュニケーションする際に伝達される微小な物質のことで、幹細胞培養上清は、幹細胞を培養した後に得られる培養液の上澄みを指します。幹細胞培養上清にはエクソソームが含まれるといわれ、巷では、どちらも区別せずにエクソソームと呼ばれたりしています。

現在、多くの国でエクソソームを使った治療法や診断法の研究が進んでおり、大きな期待や注目を集めています。しかし、安全性や有効性が科学的に確立したものはまだありません。事実、不適切に管理されたエクソソームが治療に用いられ、患者さんに重篤な被害が生じたケースも報じられています。そのため、欧米には、エクソソームを治療に使用する際に、当局の審査や承認を求める規制があります。それでも、科学的エビデンスのない高額なエクソソーム治療を行う医療機関が数十件あるといわれ、問題視されています。

一方、日本では、このエクソソーム治療が規制の隙間をすり抜けるかたちで提供されています。現行の規制では、企業が販売できるのは実験用のエクソソームに限られており、治療効果や効能をうたうことは禁じられています。しかし、医師がこれを用いて治療を行うことは禁じられておらず、当局による審査も承認も必要とされません。また、細胞を使う医療であれば、いわゆる「再生医療法」の規制対象になりますが、細胞ではないエクソソームは規制の対象外となります。このため、日本ではエクソソームや幹細胞培養上清を提供する医療機関が、欧米よりもはるかに多い、600件以上存在するといわれています。

細胞ではないエクソソームは、今の法律上、再生医療とはいえません。また、iPS細胞のエクソソームをうたう商品や治療もありますが、多くはiPS細胞を培養した後の幹細胞培養上清であり、iPS細胞自体が含まれるわけではありません。科学的な裏づけがない点も他のエクソソームと同じです。しかし、研究が進めば、安全で有効な治療法や診断法が確立される可能性も大いに期待されます。研究の発展を応援しつつ、行き過ぎた期待に左右されない姿勢と、患者さんを守る明確なルール作りが求められます。

 

参考:「エクソソーム治療に関する規制整備の必要性を指摘した論文が発表されました」(2024年10月15日)
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/241025-100000.html

 

(文· 藤田 みさお 上廣倫理研究部門教授)