日本で動物性集合胚研究の規制が緩和
2019年3月1日、日本において動物性集合胚(注1)研究の規制が緩和され、人の臓器を持つ動物の産出が認められました。2010年以降、動物体内でヒト多能性幹細胞に由来する臓器を作製する研究が進展しており、その臓器を用いた疾患メカニズム研究、創薬、さらに移植医療への期待が高まっています。それに伴い、近年、イギリスやアメリカでも動物性集合胚研究の規制整備が進められてきました。
日本ではこれまで、「特定胚の取扱いに関する指針 」(2001年;2009年改正)に基づき、人に移植可能な臓器の作製を目的とした基礎研究に限定して、動物性集合胚の作製、また日数等を限定した培養が認められてきました。しかし、2012年に開始された指針改正に関する議論の結果、研究目的を臓器移植だけでなく、疾患メカニズム解明や創薬開発なども含める形で、動物の産出を容認するという結論に至りました。ただ、今回の指針改正では、作製した臓器の人への移植は検討の対象となっていません。
今回の指針改正に先立ち日本では、動物性集合胚研究において種の境界が曖昧になる動物の誕生が懸念され、人のような容姿や脳機能を持つ動物、また人の精子・卵子を持つ動物が交配し、人と動物のハイブリッドが生まれる可能性に関して科学的な検討が行われました。その結果、懸念されるような動物が誕生する可能性は極めて低いと判断されました。そのうえで慎重を期して、研究者には研究計画の段階で懸念を回避するための措置を講じるよう求め、倫理審査委員会や国でもそうした措置を確認することになりました。
近年、動物性集合胚研究において、アルツハイマー病などの疾患メカニズムを解明するために人の細胞から成る脳を作ったり、様々な疾患研究を促進するために人の精子・卵子を作ったりする必要性が指摘されています。今回の指針改正では、必ずしも人の細胞から成る脳や人の精子・卵子を持つ動物の産出は禁止されておらず、今後、先に述べた懸念を回避する措置が講じられれば、そうした研究が容認される可能性もあります。
しかし、私たちが 2016年に一般市民を対象に行った調査では、動物の脳や精子・卵子に人の細胞が混ざることに対して大きな懸念が示されました(注2、3)。そのため今後、そうした研究を進める場合、一般市民も交えた社会的な議論が必要になるでしょう。また今回の指針改正では、作製した臓器の人への移植は検討の対象外でしたが、将来的な研究の進捗に応じて、臓器移植に伴う安全性リスクの評価や倫理的課題の検討も求められると言えます。
(文・上廣倫理研究部門 澤井 努)
注1)動物性集合胚:動物の胚に人の細胞(iPS 細胞や ES 細胞など)を注入したもの