CiRAニュースレターvol.37
2019年4月26日発行
鈴木 美香 研究員

会ったことはない。けれど、想いを共有する。

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このところ、研究者と、細胞提供者がよりよい信頼関係を築くためには何が必要かを考えています。私は、お互いが大事にしている部分を共有することが重要だと考えているのですが、さてどうでしょうか。

これまで、一般の方と話をする中で、「もしiPS細胞をつくるために血液を提供してくださいと言われたら、協力しますか?」とたずねると、ほとんどの方が「協力します」とおっしゃいます。勿論、山中所長の存在やCiRAの活動に共感してということかもしれません(いや、私の話が上手かったからに違いない!?)。理由はさまざまあれど、実際にiPS細胞を使って研究するのは、山中所長だけではありません。さらに言えば、CiRAの研究者だけでもありません。iPS細胞ストックのような細胞バンクに保管されれば、世界中の研究者が使う可能性があるのです。

さらに、iPS細胞の最大の特徴は、半永久的に増え、あらゆる細胞に分化できることですから、一般的な細胞よりも長期間に渡り、再生医療や薬の開発、人の発生のしくみを解明するような基礎研究など、多様な目的に使われます。その過程で、遺伝子を調べることもあれば、動物実験を伴うこともあります。私だったら相当悩むだろうと思うのに、なぜみなさんこんなにもすんなり協力してくれるのか……。その声を聴き、私はむしろ、研究する側に託された責任というものを感じます。

一方、細胞を使って研究する側はどうでしょうか。通常、細胞は誰に由来する細胞かが分からなくなるよう匿名化し、「hSC-001」のような記号で識別します。私は仕事柄、研究計画書に目を通すこともあるのですが、『研究者は、自分が使う細胞の背景に「人」がいることをどんなとき意識するのかなぁ』、『「人」の存在を意識し過ぎると研究を進めにくくなることもあるか……』などあれこれ想像します。

細胞を使って研究するにしても、細胞を他機関へ配布するにしても、提供者の意思に反した使い方をしないことが大前提ですが、具体的にはどうしたらいいか。ルールを厳しくしたり、事前の審査をより厳格にしたりすることはいくらでもできます。しかし、それらが適切に機能するのは、実際に細胞を扱う研究者ひとりひとりの意識と行動が伴ってのことです。そこに、細胞提供者の声を届ければ、何か変わることがあるのではないか。

CiRAは、一日も早く、一人でも多くの患者さんに新しい治療法を届けるという目標に加え、研究環境・支援体制でも日本最高レベルを目指すという目標も掲げています。一般の立場と、研究者の立場を行き来しながら、一般の人の声を研究者に届け、また研究者の考えを一般の人に示すことで、両者のより適切な距離感と信頼関係の構築に貢献できないかと考えています。

(文・上廣倫理研究部門 鈴木 美香)