CiRAニュースレターvol.33
2018年4月20日発行
八田 太一 助教

細胞治療に関するウェブサイト情報と近年の法改正

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幹細胞生物学の進展と細胞の培養・保存にかかる技術の発展により、細胞治療への期待が高まっています。その一方、科学的根拠の乏しい細胞治療が提供される事例も少なくありません。科学性を装い患者さんの期待を逆手にとったウェブサイトの存在は世界中で問題となっています。細胞治療という発展途上の治療を受けたいと思った場合、患者さんが必要な情報を取捨選択することは容易ではないでしょう。

内閣府消費者委員会の調べでは、近年、美容医療サービスに関する消費者トラブルの相談件数が増加したこと、さらには、トラブルのきっかけの多くがウェブサイトであることが分かっています。これを受けて、平成29 年6 月、「医療法」の部分改正により、病院やクリニックのウェブサイトも医療広告規制の対象となり、ウェブサイトの監視体制が強化されました。今後、細胞治療を提供する病院やクリニックのウェブサイトにおける虚偽や誇大な広告が規制され、より適切な情報が提供されるように方向づけられると言えるかもしれません。しかしながら、患者さんの抱く期待と誤解が表裏一体であることを踏まえると、広告規制のみでウェブサイトを介したトラブルのすべてを解決することは難しいと思われます。

また、これまで細胞治療について患者さんにどのような説明がなされているかは明らかにされていませんでしたが、平成26 年11 月に施行された「再生医療等の安全性確保等に関する法律」によって、治療内容、予期される効果やリスク、費用などが文書で説明すべき項目として位置づけられました。さらに、これまで病院やクリニックのウェブサイトでは治療内容、効果やリスク、価格などの情報が掲載されないものがありましたが、平成29 年11 月、同法律の施行規則改正により、全国で提供されている細胞治療の説明文書が公開されるようになりました。これは主体的に情報を収集する患者さんのニーズに応える改正であったと言えるでしょう。しかしながら、細胞治療の多くが未だ研究段階であるという事実を踏まえると、治療内容、効果やリスクの科学的妥当性や価格の適切性については、医師に相談したうえで慎重な判断が求められることに変わりはありません。

本稿では、「医療法」と「再生医療等の安全性確保等に関する法律」の一端を紹介しました。患者さんが必要とする情報が、徐々にではありますが、より多く、より適切に発信されるように方向づけられるようになりました。やがて、これらの法律の実効性を検証する時が来るでしょう。このような時流に合わせて、私たちも研究を行っています。情報を必要とする患者さんは生身の人間であり、私たちの研究の向こうには常にその存在がある。そのことを忘れずに、研究を積み重ね、今後も成果を発信していきます。

(文・上廣倫理研究部門 八田太一)