CiRAニュースレターvol.35
2018年10月29日発行
藤田 みさお 教授

治験の晴れやかさとシビアさ

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今号では、CiRAの研究成果を基にして、京都大学医学部附属病院で始まったパーキンソン病の治験を特集しています。(4,5ページ)ヒトのiPS細胞を目的の細胞に効率よく安全に分化させること等を目指す基礎研究に始まり、新しい治療法を開発して動物実験で何度も安全性や有効性を確認した後、初めて実際の患者さんを対象にして試す、というのが治験です(図)。そこで「治療として提供しても大丈夫だ」と科学的に証明できて、やっと患者さんに新しい治療を届けられるようになります。しかし、そこに至るまでの道のりは決して平坦なものではありません。

例えば、治験に参加したある患者さんの症状が、iPS細胞から作った細胞を移植された後で軽減したとします。その患者さんやご家族、もちろんCiRAのメンバー全員にとって、それは非常に喜ばしく嬉しいことです。ただ、その事実だけで開発中の治療法の成功が直ちに約束される訳ではありません。たまたま様々な条件が重なって、その方には効いただけかもしれないからです。偶然ではないことを科学的に証明するためには、何名もの患者さんに治験にご協力いただかなければなりません。

何名もの患者さんが治験に参加すれば、効果が見られなかったり、有害な症状が生じたりする方が出てくるかもしれません。もちろん、効果が見込まれるからこそ治験は実施され、有害な症状が出た場合に備えた体制も整えられています。ただ、人で初めて試す以上、何が起こるかは誰にも分かりません。そして、とても残念なことではありますがある患者さんにとって効果がなかったり、有害であったりしても、その事実だけで開発中の治療法の失敗が直ちに決まる訳ではありません。偶然、その方にとって効かなかったり、有害だったりしたのか、それとも治療法自体に原因があったのかを検証しながら、多くの場合、治験は慎重に続けられていきます。

治験には、新しい治療の実現に向けた大きな前進という晴れやかな側面がある一方で、患者さんに負担をかけながら安全性や有効性を綿密に見極めていくというシビアな一面もあります。辛抱強く、一喜一憂することなく、見守っていただきたいと思います。

(文・上廣倫理研究部門藤田みさお)